お正月花の異変

2012 年12 月21 日号 No193

「お正月花の異変」

何十年に一度二度訪れる、花市場の異変です。暮れの千両の異常な高値。南天の実付きが悪く、例年の3割程度の出荷です。

お正月花の高値が予想されています。お正月には欠かせない水仙がいつまでたっても潤沢に出荷されない。黄菊や白菊にいたっても品薄が予想されている。

多くは異常に暑かった夏場の天候と降雨量、秋が短く、すぐさま温度が下がり冬に突入したこと。私が言うまでもなく、植物は人間のために、人間の都合に合わせて生きているわけではありません。

暑い夏、植物は暑さと戦わなくては生き抜いていけない。暑さに負けない仕組みは水分を蒸発させることで体の温度を下げます。

1グラムの水を蒸発させることで583カロリーの熱が奪われます。多くの水分を蒸発させればさせるだけ体を冷やすことができます。

何年何十年と生きている樹木はその根を四方八方に張り巡らし、多くの水を吸収します。水を吸収できない植物は庭や花壇、畑にある植物です。

これらの植物は日が落ちてから水やりをすることで、夜にたっぷりと植物が水を吸い、また暑い日中に備えることができるのです。

さらにどのような草も余分に吸い込んだ水分は朝に吐き出す特性を持っていて「溢水」(いっすい)と言います。夜の湿度が上がった時、葉先に水滴がたまっている、ゴルフ場など朝一番、ズボンのすそが濡れてしまっていることがありますがその現象です。

今年のように水仙の花が咲いてこないという現象は花芽分化が順調に行われなかったことが考えられます。植物が特定の季節に花を咲かせるのは、多くの場合、花芽形成が日長や温度によって決定されるからです。花芽が形成されますと、生長して蕾となり、開花します。

今年は異常な高温のため水仙が根を張ることができませんでした。このため十分な水分や養分を得られず花芽分化が大幅に遅れました。
ぎりぎり暮れの商戦に間に合うか間に合わないか微妙です。大方は年明けになりそうな気配です。そして植物は寒さにも耐える力を持たなくてはなりません。

植物が凍ることは死を意味します。寒さで凍らないために寒くなると糖分を作り耐え忍びます。理科の実験で真水と糖分の含まれた水を凍らせた経験があると思いますが、糖分やビタミン類を含んだ方が「凝固点降下」の現象が起こります。

人はその生態を利用してハウスで作っているほうれん草を出荷前に一定期間寒風にさらし「寒じめほうれん草」を作ります。そればかりでなく冬大根や冬の白菜が甘いのも植物の凍らない生態によるものです。

植物は一定の場所に根を下ろすことで、人間のように動き回ることができません。それ故に与えられた環境の中で必死に生きる努力をします。その努力は植物の生態を知れば知るだけ涙ぐましい努力です。

満足する量も満足する品質も水仙には望めないかもしれません。でも必死に根を張り、花芽をつけ、葉を伸ばした今年の水仙は、可憐に、愛おしく感じさせてくれると思います。

参考資料「植物はすごい」田中修

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