2010 年7 月30 日号No70
豆腐屋さんが豆腐を作るという仕事がどの時点で終わるのか?大豆を半日水に浸し、大豆をクリーム状にし、煮詰める。煮詰めたら、布にくるみ豆乳を搾り出す。その豆乳ににがりを入れかき混ぜる。やがて豆腐が固まり出来上がる。何も豆腐の作り方の講習を行うのではありません、豆腐屋さんの仕事はここで終わるのでしょうか?
豆腐屋さんが豆腐を売らなければここで終わるのですが、この豆腐は一丁一丁お客さんに買っていただきます。買ったお客さんが、その豆腐を食べ「美味しい豆腐だ」と感じていただいて豆腐屋さんの仕事がやっと終わるように思います。そのため水に浸す時間、当然夏と冬で違います。大豆のできにより、煮る時間も違ってきます。
にがりの種類から、かき混ぜる具合、全ての工程でその豆腐屋さんの長年の技が発揮されます。それは「これこそお客さんが喜んで舌鼓を打ち、これが豆腐だと言ってくれるものを作ろう」との思いがあるから豆腐作りに日夜励む事になる。
それでは花屋の店頭にお客様が来て、「お友達のお店のオープンに持っていく花束を作っていただけますか」こう言われたとしましょう。さて皆さんはどのようなものを作るのでしょう。
依頼主のご予算、好み、依頼主の様相からそっと依頼主の好み見計らうのでしょう。勿論送り先のご商売、彩りや季節感も大事でしょう。花束を作り上げ、ラッピングを施し、依頼主の了解を取り付け出来上がります。
豆腐屋さんと同じで、ここでこの仕事が終わるのではないと思います。お客様が花束を贈る先に持っていき、先方から少なくとも「わぁ、素敵な花、ありがとう」ここで私達の一つの仕事が終わるのではないでしょうか。私達仲卸もまったく同じです。注文が来て、注文どうりに荷揃いした。ここで仕事は終わらない。依頼主の要望に沿ってお届け場所、お届け時間、揃えたものが依頼主の要望に沿っていたか?更に実際に使っていただく、使い勝手が良かったか?予算どおり収まったか。
少なくともここまで仕事を見届ける作業を繰り返すことが、次の仕事をステップアップさせるように思う。今年4月に亡くなった作家井上ひさしさんは自分自身の仕事についてこう言われています。
「作者が作品を書き上げた途端、その作品は完成したのである、というのが世間の常識であるが私はそう考えない。・・・・読者を想定した瞬間からその作品は作者のものであると同時に読者のものであると言う塩梅になるのだ。読者が読み終えてはじめてその作品は完結する・・」
私達はどのような仕事であってもおろそかにしてはならない、その仕事から次の仕事へと学ぶものを積み重ねて、より高度な仕事を目指す、仕事は何よりもの重要な教科書です。