あの時、ほんの少し時間がずれていれば、もしかしたら僕の人生も違っていたのかもしれない。ほんの少し、僕に勇気があれば。
時折吹く風が、校庭を囲む小さな森の木々を揺らしていたのを思い出す。
降り注ぐ夏の太陽が作る僕の影はまだ小さく、これからまだ暑くなることを感じさせる夏の午後だった。
あの夏に変わった制服のシャツ。夏でも長袖だったのが半袖になり、襟も開襟となった。みな真新しいシャツを汚さないようにしていたから「良いとこの生徒さんみたいだね」そう言って近所の駄菓子屋さんのおばさんにからかわれていた。
同窓会の案内が届いたのは一か月前。今まで一度も届かなかった案内状がなぜか今年初めて届いた。
封筒の裏に書かれた発起人の1人、その女性の名前をみて僕は小さく微笑む。まだ寒い冬の下校の途中、無理やり手渡された2月のチョコレート。
「これは義理だからね」と書かれたメモが添えてあった。自転車を立ち漕ぎして帰って行く彼女の後ろ姿を思い出したから。
「つぎとまります」。手元のランプが点灯するのと同時に「森山中学校入口」という案内がバスの中に流れる。20年ぶりに訪れたこの町は、何かが大きく変わったということはなく、ただ20年前の時間が流れた町だった。町で一番高かった3階建ての役所は今でも一番高く、あの年に新築された公民館は、今では風情のある建物になっていた。
僕は同窓会より1日前にこの町にやってきた。あの夏の午後が取り戻せることなんて出来っこないことを知っているのに。
あの日、教室の窓から見える校庭の端の小さな花壇に水を上げる女の子がいた。「義理チョコのお礼を言わなきゃ」。僕は皆に気付かれないよう教室を出て花壇へ向かう。夏の日差しが作る僕の影はまだ小さい。ふと校舎の屋上のベルが午後の授業開始を告げる。
「また今度にしよう」
ベルに促され教室へ引き返す途中、小走りにかける隣組の男の子とすれ違った。
教室へ戻り、見たくはない景色を思いながら義務の様に窓の外の花壇を見つめる。楽しそうな2人の影が見えた。
あの時、ほんの少し時間がずれていれば、もしかしたら僕の人生も違っていたのかもしれない。ほんの少し、僕に勇気があれば。
Fin
今日のご紹介は、ユーカリ「ベルガムナッツ」。ベルの形をしたドライにも適した花材です。
ベル?学校のベル?少し強引なショートショート(笑)
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