財布を落としたらしい。
それも3日前の事らしい。
「らしい」というのは、最近ではほとんど財布なんか使わないから、落としたことにも気が付かず過ごしていた。
クレジットカードや電子マネーは携帯と一緒に持っているし、落とした財布には、ほんの少しのお金と、たまに行く病院の診察券や家電チェーンのポイントカードぐらいなものだから、正直取りに行くのも億劫だった。
警察から聞かされたアドレスを頼りに拾い主のところへ向かう。
国道沿いの街路樹は一回り大きくなっていたし、クリーニング屋の向かいの酒屋はコンビニになっていた。もっとも、そのクリーニング屋は駐車場になっていた。
僕が大学の4年間過ごしたこの街に、また戻ってくるとは思いもしなかった。この街には思い出が多すぎる。大学4年間の思い出と、4度の夏を過ごした恋人の思い出。
葉桜の緑が一層濃くなり、夏の訪れを待つばかりのよく晴れた午後だった。
インターホンが鳴りキッチリ3秒数えた後に3度のノック。
当時の恋人と決めた2人の合図。
「新聞の勧誘や国営方法の取立の時は出ないから、君がきた時の合図を決めよう」
そう言って決めた2人だけの秘密。
「出なくて良いの?」
名前も思い出せない女の子が、隣で横たわりそう尋ねてきたのを今でも思い出す。
その合図が2度ほど繰り返された後、静かに遠ざかるヒールの音が心に響いた。
名前も思い出せない女の子が出で行った後、急に息苦しくなって開け放った窓から見えた黄色い花。とても鮮やかな黄色の奥に、深い悲しさを感じたのは僕の罪悪感からだったのだろうか。
その花の名前がマリーゴールドだと知ったのは、ラジオから聞こえてきた女性歌手が歌う歌詞だった。
過ぎ去った時間は取り戻せないけど、過去は未来とつながっている。
私が拾ったこの財布の持ち主は、あの時の彼なのか、それとも単なる似た名前の誰かなのか。
現実は小説より奇なり・・・
(笑)
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株式会社フローレ21葛西店 長友