あの日の午後も、ちょうど今日と同じような季節外れの暑さだったと思う。
大きな台風が南から連れてきた高気圧のせいで、立秋も過ぎたというのにむせ返る様な暑さが纏わりつく。
10年という時間が長かったのか短かかったのかは未だ分からないけど、日本への帰国辞令を受け、久しぶりの里帰り。
帰国後の初出社日。
午前中に各部署への帰任の挨拶をし、帰任支度があるからという名目で、早々に会社を切り上げた。
「駅つ着いたら電話をくれ。あの辺もずいぶん変わったから駅まで迎えに行くよ」
古い友人達が僕の帰国を知り、小さいながらも帰国祝いをしてくれるという。
そして最後にそう書かれていた。
駅に着き階段を降りる。確かに当時の面影は無く小奇麗なバスのロータリーに変わっていた。
空を見上げると抜けるような青空が広がる。遠くに小さく見える季節外れの積乱雲。
輪郭がぼやけていてなんとなく幻を見ているようだった。
印刷した友人からのメールをバックから取り出し公衆電話を探す。
帰国後間もない僕は帯電話を持ってない。さすがの友人たちもそこまでは想像していなかったのだろう。
当時よりも普及した携帯電話が原因なのだろう。この公衆電話探しが思いのほか大変だった。
ようやく探し当てた電話ボックス、まさかの使用中。
人のことを言えた義理ではないけれど、まだ携帯電話を持たない人がいるんだな?そう独り言ちた時にボックスの扉が開いた。
出てきた女性に僕は言葉を失う。
奇麗に着こなされた紗の着物に品の良い印伝のバッグ。
僕を認めた瞬間、彼女はこう言う。
「お久しぶり。お元気そうで。そして相変わらずね。」
「君こそ。。。お元気そうで」
声を絞りだすだけの僕は、いったいどんな顔で彼女と対峙していたのだろう。
そしてなぜ彼女は、僕を認めた際に大して驚きもせずただ僕を見つめることができたのだろう。
10年前、結婚を望む君よりも自身の出世を求め、連絡先も告げづに彼女を置いて行った男の顔を。
そしてなぜ10年も合わなかった2人が、この同じ時間に、この数奇な場所でこんな再会をする事になったのだろう。
ゆっくり振り返り彼女を探すも、人影さえまばらなとても暑い午後の駅前に面影すら見当たらない。
遠くに見えていた幻のような積乱雲もいつしか消えていた。
彼女もまた、この夏の午後の幻だったのだろうか。
ふと見ると庭先に咲くヒペリカムが赤く染まりひっそりと佇んでいる。
そこだけが、夏は終わっていて秋が来ているという現実を伝えているようだった。。。
Fin
こんにちは。
夏の終わりを実感すると、この暑さもなんとなく愛おしくなるのは僕だけでしょうか(笑)
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