「なんでだろう、ドキドキしてる。」
東京では珍しい、地下鉄の始発があるこの街に越してきたのは7年前。
会社での、実ることのない不毛な恋愛にけりを付け、過去の記憶のリセットと追憶からの逃避をすべく、わずかな退職金と、あいつからの気持ちばかりの手切れ金で、この小さな花屋をオープンさせた。
越してきたころはまだ空き地や畑も残っていたこの街も、いつの間にか大きなマンシょンが立ち並び、新しいお客まさも増えてきた。
「ニママ、今日はこれにするね」
最近出来たマンションに越してきたというサッカー好きの男の子。ランドセルの香りが抜けないままブレザーの制服を着ている感じが微笑ましい。歳のわりにアプリコットやパープル系を好むセンス、うちのお得意様だ。でも、この子が来ると、なんとなく心落ち着かなくなるのはなんでだろう。
「ほら、ブレザーのボタン閉めて。寝ぐせも直ってないし!」
朝、あの子が店の前を通るときに大声で声をかける私。そんな口うるさい私についたあだ名が、2人目のお母さん、それが「二ママ」らしいい。
普段、好んでは選ばない赤系のバラ。でもこの時期は稼ぎ頭、背に腹は、だ。
「もーぼちぼちクリスマスだね。今日は素敵な赤バラが入ったからサービスしとくよ。君は嫌いかもしれないけど、たぶん、ママは喜ぶと思うから。」
「ママ、本当はいないんだ、ずっとパパと二人きり。」
その後、ほんの少しの会話だったけど、実際はママとの記憶もほとんど無いらしい。
「別に気にしてないよ、こんな空気、もう慣れてるし。赤バラはパパに言っておくよ、じゃねー。」
振り向かず、右手を上げて帰ってい行くあの子が小さくなっていく。
なんだろうこの既視感。
店に戻り、オーダー品のクリスマスを意識したいくつかのブーケを作る。色とりどりの花に囲まれた私、きっとこの瞬間を写メったら私だけモノクロに写っているような気がする。
かじかんだ両手に息を吹きかける。こんな時、ため息のほうが長く温かい。。。
サンタさんがいないことはもうずいぶん前に知っているけど、空気が澄んだ冬の夜空を見上げてつくため息は白く美しい。
「Import Roses」
今週の葛西店は輸入バラフェア。国産のバラがシャンパーニュだとすると、輸入のバラは、ボルドーワインのようにしっかりとした佇まい。このシーズンぴったりですね。そんな輸入バラのお問い合わせ、またはその他「お花の仕入れ」についてのお問い合わせはこちらまで!
株式会社フローレ21
葛西店